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林修が小野正嗣(芥川賞作家)に語る「人間の絆」サマセット・モーム【林修・世界の名著】

 2015/10/28  

15(出典;meigen-ijin.com/)

今回は林修先生自身が選んだ、サマセット・モーム「人間の絆」。

ゲスト(聞き手)は2度めの登場、芥川賞作家の小野正嗣さん。

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「読んだことがある」という人に一度も会ったことがないという林先生ですが、小野正嗣さんも今回出演依頼を受けて初めて読んだのだそう。

しかし林先生にとっては20回近く読んだ人生のバイブルとも言うべき本。
さすがに理解が深く、授業のように上手くまとまった放送となりました。

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「人間の絆」はどんな本?

イギリスの小説家、サマセット・モームが1915年に発表した「人間の絆」は、生まれつき障害を持ち9歳で孤児となった少年「フィリップ」がさまざまな葛藤を抱えながら成長する姿を描いた長編教養小説で(9~30歳)、自らも10歳で孤児になった著者モームの自伝的作品と言われる名著。

人間の絆 上巻 (新潮文庫 モ 5-11)
人間の絆 下巻 (新潮文庫)
(番組で使用されたのは新潮文庫↑でした)

フランス、ドイツ、ロンドンとさまざまな場所を舞台に物語が進行します。

本の全てが詰まった冒頭と最終行

林先生が「この部分を見て下さい」と言った時、小野正嗣さんが思わず「素晴らしい」と声を漏らした、本の内容をギュッと凝縮させた部分です。

【冒頭】くらい灰色の朝が明けた。雲が重く垂れ下がり、ひどく冷え冷えとして、雪にでもなりそうだった。

【最終行】陽が、美しく輝いていた。

本書は少年の成長を描く長い物語となっていますが、冒頭と最終行を読むと「朝暗かったのが、途中で太陽が出て輝いた」。それだけの話しだと読み解くことができてしまう、とても計算された構成となっています。

本の言いたいことだけ考えるなら非常にシンプルなのですが、林先生は本書の途中経過「青春期」にも魅力を見出し、若いころに何度も何度も読んだそうです。

その魅力に関する話はまだまだ続きます。

主人公にコンプレックスを投影できる「教養小説」

「脚の障害」というコンプレックスを抱える主人公「フィリップ」。著者モームもまた「吃音(きつおん)」(ドモること)に悩み、主人公に自己投影したと言われていますが、現代人にとっても自己投影しやすいリアリティのある教養小説となっています。

「学校のクラスに必ずこういう奴いるよな」と感じさせる登場人物も多いのですが、その中で林先生が自己投影したのは、やはり主人公である「フィリップ」。

林先生が昔「肥満児」だったのは有名な話ですが、本人は特別強いコンプレックスを持っておらず、本書においては別の部分で共鳴したそう。

それは一体どの部分なのか?
話を聞いていくとその答えが見えてきます。

見たことあるかも?な登場人物

振り回し女「ミルドレッド」

自分のことしか考えない「ミルドレッド」と主人公フィリップの関係性の移り変わりは以下のようになっています。

⇒フィリップがミルドレッドに夢中になる

⇒フィリップに貢がせて別の男と結婚

⇒妊娠後男に捨てられフィリップを頼る

⇒出産後フィリップの友人「グリフィス」と浮気

⇒夜の街に身を落とし、再びフィリップを頼る

⇒フィリップは既に嫌悪感を抱いており(キスを拒んだ)、恋愛対象にしてもらえず逆上。家財道具を全て破壊して去る

⇒病気になり、またフィリップを頼る

現実世界の「ミルドレッド」に出会ったことがあるという林先生。この本を読んでいたおかげで意外と冷静に対応できたのだそう。こういった疑似体験こそが、林先生がフィリップに自分を重ねるきっかけを作っているようです。

ここから更に話はヒートアップし「文学」と「人間」の関係性にまで発展していきます。

小野正嗣「文学は人間をつくる」

「中学生の頃の僕は将来ミルドレッドに会うという予感があったんだろうか?」という疑問に対し、小野正嗣さんはこんなことを言っていました。

「逆にこの本を読んだからミルドレッドに出会ったのかもしれないですよ。読んだ本によって自分の中の感受性が養われていって、その後の色んな出会いの中で、本に出てきたような人になぜか惹きつけられてしまう、ということがある。だから読んだ本が我々の未来を予期する、形成するということはある、と僕は思うんです。」

これには納得した顔の林先生でしたが「ま、僕はそういう経験はないんですけどね。ははははは。」と小野さん・・。

ただやはり林先生にとっては本に出てくるあらゆる登場人物が「生き方の教科書」になったという側面があるそうです。ミルドレッドが浮気した相手「グリフィス」のズルさなども、こんな人間もいるという勉強になったとか。

小野正嗣は「アセルニー」?

自称”歩く品行方正”だという小野正嗣さんは、自身をを登場人物で例えるなら「アセルニー」だと言います。

物語の最後、フィリップが全財産を失った時に手を差し伸べ、最終的に長女サリーと結婚することになるとても親切な一家が「アセルニー家」。優しくて親切だけどいつも余計なことばっかり言っている父「アセルニー」さんが僕です、という小野さん。

楽しそうにペラペラと喋り、相手に合わせて話す優しさを持ち、愛嬌があって愛されそうな雰囲気は確かに「アルセニー」のイメージと似ていて妙に納得しました。

「人生は無意味でシンプル」

林修が「人間の絆」から選んだ一節です。

生も無意味、死もまた無意味なのだ。フィリップは、かつて少年時代、神への信仰という重荷が、その肩から覗かれた時、それこそ心の底からの喜びを、感じたものだったが、今もまたその喜びに酔った。

【解説】
生まれつき脚が良くなく、父も母もなくなってしまいるフィリップ。さまざまな苦しすぎる経験をしていきますが、最終的に父親と同じ「医者」として独立し母のような女性と出合って結婚。主人公は長い年月を経て原点である「父と母」に辿り着きました。

この小説は登場人物も多く、読んでいる途中は人生の複雑さばかりに目がいってしまう。しかしいったん読み終わってみれば「人生はシンプルといえばシンプルなものだ」とも教えてくれています。

そういう意味で「生も死も無意味」という一節は、「人生は無意味だということさえ悟ってしまえば、不幸とか幸福に振り回されることなく、絨毯を織るように自分の人生をただ織り上げていくだけのもの」そんなメッセージになっているという林先生。

結局は最初に紹介した「冒頭」と「最後の一文」に集約されている、まさに名著といえる一冊です。

最後の一言

林修が考える「人間の絆」を象徴する一言とは?

「人生の参考書」

いつも片手に参考書を抱える林修の、人生の参考書です。

人間の絆 下巻 (新潮文庫)

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