NHKのクローズアップ現代。
国谷裕子キャスター最後の放送だったので、内容を記事にして残そうと思います。
選ばれたテーマは「未来への風」。現代社会における痛みと向き合いながらも、未来に向けて動き出した若者をを取り上げています。
多少長くなりますが、よろしければお付き合い下さい。
ゲストはノンフィクション作家の柳田邦男さんです。
※公式ページはにも放送内容記事がありますが、文章用に編集されていないっぽくて分かりにくいので、メモ書きの意味も含めて記事にしました。
現代の若者たちが描く未来は・・・
バブル崩壊後、低成長が続く日本。
雇用環境の悪化や社会保障制度の限界。
そんな中、社会に積み残された課題に向き合う若者たちが次々と登場しています。
自分たちの意思で動き始めた若者たちは、何を大切にしながら未来を見つめているのでしょうか?
明るい希望を持てない若者たち
大きな時代のうねりの中で、当たり前だったことがそうでなくなり、「失われた10年」がいつの間にか20年になりました。
グローバル化が急激に進み、激しい価格競争の中で「コスト意識」を強めざるを得なくなった企業は、人を減らし、柔軟に人件費を調整できる非正規雇用を拡大していきました。
大人たちが信じていたことが変わっていった時代
日本の経済成長が下降に転じてから生まれ育った世代は「失われた20年という実感」そのものも乏しいと見られています。
内閣府が13歳から29歳を対象に行った調査では、「将来について明るい希望がある」と答えた若者の割合は、下記の表のように日本が最下位です。
内向きで政治や社会に無関心。社会に傷つけられても「自己責任」と自分を責めがちな世代と見られがちですが、一方で違う見方をする若者もいます。
別の内閣府の調査では20代の半数近くが「自分の生活の充実より国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」と考えるようになっています。
「社会に貢献することで充実感を得たい」という若者が増えているのです。
とは言っても激しい競走、管理の強化、横並びに従わざるを得ない同調圧力と言ったプレッシャーによって、決して声を上げたり行動がしやすいと言えない社会。
そうした中で自ら声をあげ、痛みを乗り越えていくために行動を始めた6人の若者がいます。
彼らの姿を通して、痛みを抱える若者の心の中を見つめていきます。
デモで大人に呼びかける若者
2015年8月、多い時には数万人が集まったデモがありました。
当初10人ほどで始めたデモが次第に社会現象となり、若い世代の力を印象づけました。
活動をしていた奥田さんです。
以前はこの社会に諦めに似た気持ちを抱えていましたが、東日本大震災のボランティアをきっかけに社会問題に向き合いたいと考えるようになります。
奥田さんが発した等身大の言葉は、YouTubeを通して爆発的に広がっていきました。
これまで社会に無関心と思われていた若者たちも声を挙げ、大きなうねりとなったのです。
この社会の痛みっていうのは空気感とか、言えないってこととか、おかしいと思っているのにそれが素直に表現できないっていうことなんだと思います。自分の周りのこととか、生きかたを考えたらそれだけじゃいられないって思いますね。
政界に訴えかける若者
2015年5月。18歳の選挙権について審議するために開かれた衆議院特別委員会に出席した斉木陽平さんです。
斉木さんは高校生を中心に、若者の政治意識を高めるための活動を行っています。
「今の政治には中高年の意見しか反映されていない」と感じているからです。
これまでに述べ2千人以上の高校生が、斉木さんの考えに賛同し、主催するイベントに参加しています。
大人たちに対しての怒りみたいなのはありますよ。全部先送りにされているというか。自分たちがこう思うんだっていうのをちゃんと言っていく中で”志の輪”みたいのが広がっていくのかなと思います。
労働に苦しむ若者を支援するNPO法人
雇用環境の劣化によって不安定な条件で働く非正規雇用は増加し、所得格差は拡大。
過酷な労働によって”うつ病”や”自殺”に追い込まれている若者が増えています。
若者の労働相談を受けている「POSSE」というNPO法人があります。
このNPO法人では「賃金の未払い」や「違法な長時間労働」など、ブラック企業の実態を明らかにしてきました。年間の相談件数はおよそ年間3000件にのぼります。
事務局の坂倉さんは孤立した若者たちが助けを求められずにいると危機感を抱いていました。
会社は利益を上げるためであれば、若者を正社員だろうが非正規だろうが学生だろうが使い潰してしまう。それがこの10年20年の大きな変化だと思います。
相談をしてきた若者に「一緒に労働環境を改善しよう」と呼びかけ、既存の労働組合では救えなかった若者たちが次々と参加するようになっています。
自分たちの問題は自ら解決していく。
若者をサポートしながら雇用主と直接交渉し、改善策を引き出しています。
安心して働けることができる社会じゃなければ、若者がこれから社会に対して活躍できる一番の基盤を失ってしまう。でも、誰も助けてくれないんだろうなと思っています。だったら自分たちで新しい取り組みを作っていくしかない。
若者のリアルを詩で表現する若者
先月発売された『キリンの子』という短歌集があります。作者は歌人の鳥居さん。
リアルな痛みの描写が大きな反響を呼び、既に増刷されています。
掲載されている詩には自分の痛みだけではなく、社会から感じるの痛みについても表現されています。
「揃えられ主人帰り待っている飛び降りたこと知らぬ革靴」
「駅前で眠る老人すぐ横にマクドナルドの温かいゴミ」
鳥居さんは母親の自殺やホームレス生活を経験し、義務教育さえ満足に受けられませんでした。
(痛みを)他人事だって思いたくないし、思われたくない。自分のことに引き寄せて想像してみるっていうのは、大事なことのような気がします。
日本の問題を映画で呼びかける若者
日本が長年解決できていない問題を映画にした大学生の仲村さん。普天間基地返還が決まった翌年に沖縄で生まれ育ちました。
今月から都内で公開されています。
仲村さんは賛成、反対と単純に割り切ることのできない、自分たちの複雑な思いを伝えたくて映画を作ったと言います。
映画は仲村さんの思いに共感した沖縄出身の大学生によって作られ、チケットの販売などを支えるのは県外の若者たちです。上映場所は東京・大阪・名古屋と次々に増えています。
沖縄の声をきちんと伝えて、その中で沖縄だけの問題じゃなく日本国民が同じような気持ちで、当事者として考えるようになれば、そこから新しい切り口が開けてくるのかなって思います
地方の経済に貢献する若者
先月発表された最新の国勢調査では、調査開始以来初めて人口が減少しました。
(前回の調査:1億2,711万47人から94万7,305人減少)
人口が減少したのは全国の市町村の82,4%、地域経済の疲弊が進んでいます。
そんな中、地域の経済を再生させるために動く若者がいます。
28歳でNPOバンク(momo)を立ち上げた木村真樹さんです。
新たな金融の仕組みで課題を乗り越えようとしています。
活動拠点は名古屋を中心とする東海地方。
運営を担っているのは20代から30代の若者たちです。
市民から一口1万円の出資金を募り、子育て支援など地域の課題に取り組む団体や企業に融資。木村さんたちに賛同した若者たちも、ボランティアとして事業を支えています。
これまで1億3千万円の融資を行い、貸し倒れは一件もありません。
自分たちの望む未来にどうお金を生かしていくかは自分たちの取り組み次第だ、と気がついてしまった若者たちが集まった取り組みかなと思います。
”障害児に対するデイサービス”では信用金庫からの融資も受けていますが、その背景にはNPOが作った新しい評価基準がありました。
それは収益性だけでなく、デイサービスが地域に与える様々な効果を試算すること。子供の体力、親の精神的な余裕ができることで生まれる地域活動など、お金に換算すると3千万円ほどの価値がある事業だと評価をされています。
自分たちの力量もまだまだ高めていかないといけないと思っています。希望も感じつつ、まだまだ足りない、そんな感じです
柳田邦男が考える「現代の若者に必要なもの」とは?
以下、柳田さんの言葉です。
これは若者一人の自己責任ていう問題ではなく、日本がこれまで積み残して先送りにしてきたものが一気に最近現れてきて、そのしわ寄せが若い世代に全部吹き寄せられたっていうことでしょうね。
これは一昔前の「政治活動」や「学生運動」とは全く違う。昔のようにイデオロギーとか労働組合とか組織で動くんではなく、一人ひとりが主体的に声を上げて活動していく。これは日本の社会運動としては非常に新しい傾向で、その多様性が出ていると思うんですね。ですから今は大きな歴史の転換期に来ていると捉えています。
何が若者の原動力になっているのか?
一つは就職率の悪さや時代の閉塞感、労働条件の悪さから声を上げざるを得ないこと。
もう一つは東日本大震災の経験を経て人が助け合うことの大切さや命の尊さを肌で感じていることにあると思います。
そこから出てくる言葉は思想やイデオロギーとは違う、血肉から出てくる自然な言葉として吹き出てくる叫びです。その言葉は平凡だけれども、掛値なしの本物の言葉だから若者たちは共感する。
自分たちの内面にこもっていた問題が啓発されて触発されるから、あっとういう間に一気に広がっていくということでしょうね。
現代の若者は誰のために、何のために動くのか?
若者は日本を作ってきた大人たちの問題ではなく、自分たちの問題として捉えていましたよね。
またお金など自分だけのためではなく、国や社会を良くしたいという意識が働いているように見えますが、なぜなのでしょうか?
小さい子どもは親に迷惑をかけずに「じっとしていよう」という思いが強いですよね。それが大人になってくると、積極的に状況を改善したい、と思い始める。
問題は若者がその思いをどう表現していくか、そして社会がどう受け止めるのかということにあると思います。(この後解説)
動けない若者が主体的に動くために必要なものは?
◎大人や社会に必要なこと
社会制度や行政など「支える側」の支援体制、そして企業や学校教育が若者の主体性や発言をしっかりと認めていくことが大事です。
例えば高校生が18歳になって選挙権は与えながら政治活動については規制をする、これは矛盾がある話。アメリカだと高校生ぐらいになれば堂々と授業の中で議論させ、決して政治色で見ない。そうやって子どもたちや若者が世の中の真実を見て意思決定をしてくが、日本では未だに抑圧的にしか考えない。
政治の世界でも政治活動をする若者を反体制のように、異色でしか見ないような型にはまった古い考えがあります。
◎自分で考える
若者たちも自分から進んでチャレンジしていかないといけない。そのためには自分で考える力を身に付けることが大事。自分はどんな使命を持ち、どんな役割を果たすことが世のため人のためになるかを考えること。
◎情報を読み解く力
溢れるようなネット社会の情報や報道機関の情報の裏に何があるのか、根底にある問題は何か、絶えずウォッチしながら自分で力をつけていくこと。
◎多様な考えを理解する
自分の考えを絶対としないで、違う考えがいっぱいあること。他者の考えを理解する姿勢を絶えず持ち、よく耳を傾けること。
◎表現力を身につける
自分が考えていることをきちんと表現する力がネット社会においてものすごく弱くなっているので、しっかりと身につけないといけないです。特にスマホの時代になって表現力の低下が問題になっています。
柳田邦男が若者たちのVTRを見て感じたこと
僕はVTRを見て、非常に心強く感じました。
こういう「新しい芽」というのは時代の転換を象徴するものであって、これからそれをどう大事に育てるか。これを大人たちが真剣に考え、教育が考え、政治や行政が考える。それが初めてこの国で人々が生きて良かったとか、充実感があるとか、自己肯定感があるとか、そういう社会づくりに繋がっていくと僕は思います。
本当に大きな芽になるのかまだわからないけれど、大人の温かい支える目線が必要ですね。そして若者たちには自ら考え、行動して欲しい、ということです。
最後に国谷裕子キャスターから別れの挨拶がありました
23年間担当してきましたこの番組も今夜の出演が最後になりました。
この間、視聴者の皆様方からお叱りや戒めも含め、大変多くの励ましをいただきました。クローズアップ現代が始まった平成5年からの月日を振り返ってみますと、国内、海外の変化の「底」に流れているものや、静かに吹き始めている「風」を捉えようと日々もがき、複雑化し見えにくくなっている「現代」に少しでも迫ることができればとの思いで番組に携わってきました。
23年が終わった今、そのことを、どこまで視聴者の皆様方に伝えることができたのか気がかりですけれども、そうした中でも長い間番組を続けることができましたのは、番組にご協力いただきました多くのゲストの方々、そして何より番組を見てくださった視聴者の皆様方のおかげだと感謝しています。
長い間本当にありがとうございました。
現代社会を取り扱う番組は、どうしても低迷する日本経済を取り上げざるを得ないことが多いと思います。そんな中でも「未来への新しい風」となるかもしれない若者を取り上げ、問題点や若者が改善しなければならない点にも触れながらも、希望を感じさせる内容でまとめられていました。
面白い回、微妙な回、??な回、色々な放送がありましたが、色んな意味で興味を持って見れる放送をしている数少ない番組です。
国谷裕子キャスター、お疲れさまでした。