BS林修・世界の名著。ゲストは芥川賞作家を受賞した『羽田圭介』さん。
選んだ名著はミステリー小説の源流と言われる名著「盗まれた手紙」。
本作は1844年に発表されたアメリカの小説家エドガー・アラン・ポーが書いた短編小説の1つです。
ナヨっとしたイメージが強い羽田さんですが、かっこつけた言葉ではなく、自身の体験から得た考えを等身大で語る姿が好印象。あまり良い印象を持っていない人も、この放送を見たら見方が変わるんじゃないか、そう思わされた放送でした。
「盗まれた手紙」ってどんな話?
人の盲点を突く鮮やかなトリックや手紙という日常的題材の選択など、名探偵「デュパン」が登場する3部作中最も完成度が高いとされる作品。現代推理ミステリーの礎となる名著である。
本作品はある大臣がとある貴婦人の私的な手紙を盗み出すことから始まる。
警視総監の指揮による徹底的な操作が実らない中、主人公のデュパンが大臣のトリックを鮮やかに見破り、問題を解決するというミステリー小説の源流的作品。
そこには「ものを隠さずに隠す」という斬新な心理トリックや「手紙が隠される」というシンプルな題材、更にはその手紙の内容に一切触れられない斬新な構造など、これまでにない手法が多層に積み重ねられている。
「盗まれた手紙」の魅力を語る。
羽田さんが感じた「源流作品」のエネルギーとは?
もともとポーの作品に興味がなかったという羽田さん。古典は古めかしく、現代小説の方が洗練されていて面白いのではないかというイメージを持っていたけど、「隠し事」という自身の作品を書いている際に担当の編集者さんに勧められて読んだそうです。
ジャンルを開拓した小説、その作品は細部に渡って洗練されていて、ミステリー的要素だけでなく純文学的要素も内包されているというジャンルの枠に収まりきらない凄みがあります。本作品にはものすごいエネルギーが詰まっており、少ない枚数にも関わらずたくさんの要素が凝縮された完璧な作品だと感じたそうです。
起承転結に頼らない純文学的魅力がある。
現代のエンターテイメント作品は起承転結を幾重にも重ね、そこに物語の推進力を頼っているものが多い。つまり、展開重視の作品が主要になっているということ。
「盗まれた手紙」では延々と「物語の本筋と関係あるの?」と思うような描写が続いており、それが登場人物の魅力を表現する上で大きな要素となっています。これが本書の魅力を底上げしている純文学的な要素でもあり、羽田さんはそこにミステリーの源流と言われる本作の凄さを感じているようです。
現代小説の問題点は個性の薄さ、みんなが同じになっていること。
本作品のように主人公の魅力を引き出すようなものは最近の作品に少なくなっており、話の展開に関係ない部分はカットされる。そうなりすぎると起承転結の筋書きばかりが浮き彫りになってしまい、どれを読んでも同じような作品になってしまう。
現代のように映画やドラマ・小説など「無数の物語」が溢れかえっている中で差別化を図るとしたら、物語の本筋から必ずしも必要とされない部分で個性を発揮していくしかないと感じているそうです。
羽田さんが感銘を受けた一節
本書では、悪いことを考えている人間(大臣)が、高貴な人を脅かす手紙を手に入れてしまったことによって優位性を得るという構成になっています。そんな中でデュパンが警視総監に対して言ったひと言。
ざっくり言うと、奥の手(手紙)は利用したら優位性は失われてしまうが、利用せずに持っているうちは絶大な力を持っていられる、という意味です。
200年前の小説とは思えない先進性がある作品
この一文に書かれた「持っていることによる優位性」は他のどんなことにも言えるという羽田さん。
林先生と口を揃えて「核兵器」と同じだと言い、200年前に書いたものとしてはかなり先進的な内容。羽田さんもこれを読んだ当時、自分が書いているものはこれの劣化版でしかないんじゃないか、と自信がなくなることがあったようです。
それだけ羽田さんに衝撃を与えた作品ということですね。
羽田さんの小説との相違点はキャラクター
警視総監にを表した一文に羽田さんが書く主人公との共通点を見い出したそうです。。
自身の小説には「これはこうに違いない!」と思い込んで暴走するタイプが多いので、自分なら警視総監を主人公にする。聡明な人よりも、暴走するバカバカしい人を描くほうが自分に合っているという羽田さん。構成する人物が似ていても、書き手によって主役とするキャラクターは違うんですね。
このタイプを主人公にする物語って少ないですよね?と林先生に言われていましたが、主人公デュパンのように何でも鮮やかに解決する人物は「いけ好かない」そうです(笑)
主人公「デュパン」らしさを感じる言動は?
羽田圭介「警視総監に手紙を渡すシーン」
謎が解けて警視総監が手紙を手にするシーンですが、謎が解けてなお、お金をシビアに要求する物語の個性に羽田さんは笑っていました。
林修「物質・非物質世界の類似性を語るシーン」
林修『物理の世界で当てはまることは、実は”もの”じゃない非物質世界と同じで色んなルールが適用できるんだよということ。例えば現代文を解く頭と数学を解く頭は全く一緒だからね、とよく生徒たちに言うんです。』
これは頭が良い人ほどよく言っている気がしますね。物理の教授が「自分は文系だから」と言うのは「文系すらきちんとできていない」と言うのと同じことだ、と言ってたのを思い出しました。
羽田さんが最も印象に残ったのは『真似をする重要性』が描かれたシーン
を選んだ羽田さん。
異なる価値観を取り入れるためには、その相手のマネをしてみることは大切なこと。
相手ことを頭でだけ理解しようとしてもなかなかできるものじゃないし、同じ行動をとることで内部がわかってくる。不可解な言動をしている人でも真似ることで相手の考えが分かることはある、これは現代社会に取り入れても良い考えだし、結果的に相手を理解する上ではこっちの方が近道だという考えが羽田さんにはあるようです。
現代人は説明文が好き?読解力が低い?
本作は短編小説の中に読者の想像力を働かせる要素がギュッと詰まった、説明の少ない文章で描かれています。
林先生も羽田さんも何でも説明がきっちりされている長い文章が苦手だそうですが、現代社会では細かい説明を求められることが多いと感じているそう。
その理由は文章に接する絶対量が少ないことが原因ではないかという羽田さん。
本来説明文は色々読むと疲れるものだし、最近の人はたまに読むだけだから読むことができるとも言える。それがいつまでも読解力がつかないことに繋がっていると思うんですけど、最初のうちは説明文ばかりでも数をこなすうちに説明がなくても読めるようになるんじゃないか、ということです。
羽田さんはこれからも自分の信念に基いて説明ばかりじゃない、魅力的な人物を描く小説を書いていくそうです。
『考えを知るには形式を真似る』
今後、更なる活躍に期待します。
↓番組で使用されたのは新潮文庫の短編集でした。
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