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夏目漱石「坊っちゃん」と高嶋ちさ子の素直さ【林修・世界の名著】

 2016/02/08  

林修・世界の名著。

今回のゲストはヴァイオリニストの高嶋ちさ子さん。

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選んだ名著は、明治の文豪・夏目漱石が1906年に発表した「坊っちゃん」です。

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一つの文学作品をどう受け取るか、そのことに人の興味や関心が現れる。

だからこそ文学作品は面白いのですが、今回のゲストがそれを再認識させてくれました。(林修)

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夏目漱石「坊っちゃん」てどんな話?

坊っちゃん (新潮文庫)

嘘が嫌いで直情型な江戸っ子で数学教師の坊っちゃん。四国・松山の中学校での教師生活を描いた日本文学近代史上に残る名著である。

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主人公・坊っちゃんは「山嵐」と組んで、「うらなり」の婚約者「マドンナ」を奪った教頭「赤シャツ」をこらしめて教師を辞める、というのがあらすじです。

「坊っちゃん」が先生にあだ名をつける始まりになった?

林修:坊っちゃんというと先生にあだ名をつけるってありますよね。もしかしたら先生にあだ名をつけるってことを公認させる原因になったんじゃないかと。実は作中に坊っちゃんの本名が出てこないんですよね。「赤ずきんちゃん」と同じで本名が分からないままという・・。

高嶋:あー、確かにそうですねぇ。

主人公が無鉄砲?坊っちゃんを選んだ理由

林修:なぜ「坊っちゃん」を選ばれたんですか?

高嶋:ちょっと性格が似ているんですよね。坊っちゃんに。無鉄砲というか、結構最初の方にそういうシーンが出てくるじゃないですか。

林修:とても有名なシーンですよね。親譲りの無鉄砲で・・・・

親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間程腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃(はや)したからである。

高嶋:自分の部屋が2階だったんですけど、階段で部屋に行かないんですよ。木を登って部屋に入るとか。

林修:それ本当、リアル・坊っちゃんじゃないですか(笑)それもあって先ほどの一節を選ばれたんですね。ナイフで手を思いっきり切っちゃうシーンとか・・

高嶋:すっごいよく分かります。コンパスで刺したりとかも・・。昔のことでよく覚えているのが、私は運動神経が良かったんで、跳び箱とか飛ぶと友達に「高嶋、片手で飛んでみろよ」とか言われると「片手なんて余裕だよぉ」とか言って片手で飛んでました。その次に悪い子に「じゃあお前、両手無しで飛んでみろよ」とか言われて「おお、できるよー」とか言うんですけど、飛べるわけがないんですよね(笑)顔面からバーン!!て落ちたりして(笑)

林修:運動神経が良かったってのは大きいんですよ。僕なんか運動神経マイナスで生まれたので「林も木に登ってみろよ」とか言われたら「登ることに何の意味があるの?」とか言うタイプでした(笑)

高嶋:感じ悪ーい!(笑)はぁ、一緒のクラスじゃなくて良かったですよね。一緒だったら「やられて」ましたよね。

林修:嫌われたと思います(笑)僕はそういう「ワ~!」ってしている子たちの横をスーッと通って図書室で一人で本を読んでいるタイプでした。

高嶋:でも最後は、そっちが勝つんですよね。(スタジオ爆笑)。最近すごくそれを思うんですよ。

林修:そんなこたないですよ(笑)

『おばあちゃん』と『母親』いう存在

一番印象に残った人物は?という質問に対し、高嶋さんと林先生は同じ人物「清」(きよ)を選びました。

林修:高嶋さんはなぜ「清」を選ばれたんですか?

高嶋:私は凄いおばあちゃん子だったんです。母は私のことを「バカだ」とか「マヌケ」だとか「頭が悪い」とか言っていたんですけど、祖母だけは「あなたは頭が良いから将来弁護士になれ」とか、何を根拠に言ってるの?と思うくらい賞められることがよくあったんです。

清は時々台所で人の居ない時に「あなたは真っ直ぐでよい御気性だ」と誉める事が時々あった。然しおれには清の云う意味が分からなかった。好い気性なら清以外のものも、もう少し善くしてくれるだろうと思った。清がこんな事を云う度におれは御世辞は嫌いだと答えるのが常であった。すると婆さんはそれだから好い御気性ですと云っては、嬉しそうにおれの顔を眺めている。

高嶋:私が留学する時も「いつか一緒に行きたいから」って英語の勉強とかしてました。すごい似てるんですよね。

林修:無鉄砲な面だけじゃなくて、支えもあったりして。じゃあお母さんとの関係についてですが、母と娘ってある程度ぶつかるもんじゃないんですかね?

高嶋:そうですよね、昭和ですから母親は怒るものですよね。褒めて伸ばすような今の感じとは全く違っていて。物がなくなると「あなたでしょ」って言うような母でした。「じゃあ、あなた以外誰がいるのよ」って言われたら「あれ?誰だろ?」って思うくらい悪い子だったので言われてもしょうがないですけど。火がないところに煙は立たない、みたいな。

林修:その影で、お祖母さまが「違うのよ、あなたは良い子なのよ」と。

高嶋:そうです、それで祖母はよくお金もくれたんですよ。子供は表面的なものに弱いですから(笑)

林修:大事ですよね。影でこっそりくれること大事ですよ。僕は講演会なんかでも話すんですけど「子供にお金はあんまり与えない方が良い」って言う人いますけど、反対なんですよ。見てて問題のないくらい与えればいいと。

高嶋:本当ですか!?私もね、この間やっちゃったんですよ。あまりにもドリルをやってくれないので。得意じゃないものだけご褒美制にしたんですよ。そしたら今まで3時間かかってたのが、もの凄い速さで終わりましたよ。

林修:でもこれ最近の研究で「ご褒美で子どもを釣って良い」ってデータ出てるんですよね。アメリカで。僕も自分の成績を祖父母に売りに行った『成績商人』でしたから(笑)結構金遣いも荒くて、昔から。無茶苦茶お金使うんですよ。

高嶋:何に使うんですか?

林修:小学校の時、一番買ったのは「」ですけどね。腹立つでしょ(笑)「すっごい無駄遣いするんですよぉ」とか言って、本ですから・・・。親の財布からも、よくお金抜きましたよ。

高嶋:耳が痛い。「家には泥棒がいる」って母によく言われましたから・・。あれね、大胆にいかないといけないんですよ。

林修:親のお金取る子は、案外大丈夫な子が多いんですよ。他所のお金取ってるわけじゃないから。

高嶋:そうかもしれないですね。母親は「あなたに浴びせられた罵倒を、あなたが浴びせられるのを見るまでは死ねない」って言ってました(笑)

林修が「清」を選んだ理由

林修:僕はちょっと不純な理由で選びましたね。この作品だけで見ることができなくなってて、漱石っていう作家の中に出てくる一人の女性っていう見方をしたとき、あるいは漱石自身の兄嫁への憧れとかっていう・・・。だって一緒のお墓に入れてあげるっていうのは、ちょっとこう関係的には、単なるお手伝いさんでいた人っていうのではなく、「母」に繋がるような。

林修:これは偶然なのかもしれないですけど、漱石最後の作品である「明暗」で、主人公の心の恋人の女性(三角関係)が「清子」って言うんですよね。「清」で始まって「清(子)」で終わるっていう。それを知っているから単純に楽しめなくなっているんですよね。

気になる登場人物①「山嵐」

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高嶋:私はこのタイプ好きですね。

おれと同じ数学の教師に堀田と云うのが居た。これは逞(たくま)しい毬栗坊主(いがぐりぼうず)で叡山(えいざん)の悪僧と云うべき面構(面構え)である。人が叮嚀(ていねい)に辞令を見せたら見向きもせず、やあ君が新任の人か、アハハハと云った。何がアハハハだ。そんな礼儀を心得ぬ奴の所へ誰が遊びに行くものか。おれはこの時からこの坊主に山嵐(やまあらし)という渾名(あだな)をつけてやった。

気になる登場人物②「赤シャツ」

高嶋:こっちは嫌いですよ。

林修:嫌いですか?この中で一番誰が近いか?って聞かれたら「赤シャツ」ですよ。

挨拶をしてうちに教頭のなにがしと云うのがいた。(中略)妙に女の様な優しい声を出す人だった。尤も(もっとも)驚いたのはこの暑いのにフランネルの襯衣(シャツ)を着ている。(中略)しかもそれが赤シャツだから人を馬鹿にしている。あとから聞いたらこの男は年が年中赤シャツを着るんだそうだ。妙な病気があったものだ。

高嶋:いやだー。何でー?

林修:僕はこういうタイプですよ。こういうの言う、と思いましたもん。

「あの松を見給え、幹が真直で、上が傘の様に開いてターナーの画にありそうだ」と赤シャツが野だに云うと、「全くターナーですね。そうもあの曲がり具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ」ターナーとは何の事だか知らないが、聞かないでも困らない事だから黙っていた。

林修:漱石の作品は大好きなんですけど、自分の中で上位にこないんですよ。自分が「赤シャツ」だと読む度に確認しなきゃいけないんで・・。

現代では問題になる?地方をバカにしている描写

林修:僕は名古屋の出身なんですけど、高島さんは江戸っ子ですか?

高嶋:父は関西なんてすけど、母も祖母もみんな東京ですね。坊っちゃんは東京の人だからか、地方の人に対して酷いことを言うじゃないですか。

林修:これね今出版したら差別的だとか言われて、これ放送できるのかな?と思うようなところがいっぱいありますよね。

高嶋:そう、私もそう思います。

「バッタた何ぞな」と真先(まっさき)の一人がいった。
(中略)
「バッタたこれだ、大きなずう体をして、バッタを知らないた、何の事だ」と云うと、一番左の方に居た顔の丸い奴が「そりゃ、イナゴぞな、もし」と生意気におれを遣(や)り込めた。「篦棒(べらぼう)め、イナゴもバッタも同じもんだ。第一先生を捕まえて”なもし”た何だ。菜飯は田楽の時より外に食うもんじゃない」とあべこべに遣り込めてやったら「なもしと菜飯は違うぞな、もし」と云った。いつまで行っても”なもし”を使うやつだ。

高嶋:なもし、なもしってね。

林修:田舎はこうだからダメだみたいな発言何回も出てきますよね。

高嶋:その度にどこかスカッとする自分もいるんですけど、ダメですよね(笑)

林修:そうですね、住んでるところで人を判断するのはね。

夏目漱石とモーツァルトは書き直しをしない

林修:今回じっくり読みなおしてみたら、これは『落語』ですね。こういう主人公ってよく出てくるじゃないですか。漱石が落語好きだったっていうのも有名な話ですし、完全に落語のシーンもあります。

君俳句をやりますかと来たから、こいつは大変だと思って、俳句はやりません、さようならと、そこそこに帰ってきた。発句は芭蕉か髪結床(かみいどこ)の親方のやるもんだ。数学の先生が朝顔やに釣瓶(つるべ)とられた堪(たま)るものか。

高嶋:こういう所がいっぱいあって、それがスピード感を上げてますよね。

林修:近代文学っていうのは後から整理したようなところがあって、でもこれは一週間ぐらいでパパパパと書かれていると言われていますよね。書き直しもない。

高嶋:ちょっとモーツァルトに似てるんですよね。

林修:モーツァルトも書き直しがないんですか。モーツァルトの曲のまとめかたが、他の音楽家と違ってどれほど凄いかということを「のだめカンタービレ」で勉強したんですけど。

高嶋:(笑)それで正解です。間違いないです。本当に似ていますよね。書かれかたとか、スピード感っていう意味では「あぁ」っていう風にピンときちゃいますよね。あまり”ひねり”がなくて、素直で真っ直ぐなところとか。

林修:僕ね、そういう話を聞くのが好きなんですよね。結局、文学っていうのは自分の興味の方向にグッと引き寄せて理解するものですから。夏目漱石を読んでモーツァルトなんて、僕が永遠に抱くことのない感想ですけど、だからこそ面白い。

2人が選ぶ特に好きなシーン

高嶋「骨董品を売りつけられる」

山嵐が突然、君は先達(せんだって)はいか銀が来て、君が乱暴して困るから、どうか出るように話してくれと頼んだから、真面目に受けて、君に出てやれと話したのだが、あとから聞いてみると、あいつは悪い奴で、(中略)君に懸物(かけもの)や骨董を売りつけて、商売にしゆと思ってたところが、君が取り合わないで儲けがないものだから、あんな作りごとをこしらえて誤魔化したのだ。僕はあの人物を知らなかったので君に大変失敬した勘弁し給えと長々しい謝罪をした。

高嶋:ちょっと坊っちゃんが騙された感あるんですけど、日常生活でもこんなことあるなぁと。

林修:骨董品を売りつけられるとか?

高嶋:いやいや違くて(笑)やってもいないことで、文句をつけられて「そんなこと言ってないのに」みたいな。私って性格悪いと思われてるから。私が言っていそうな話って、言っていなくても周囲の人たちが食いつきやすいんですよね。話だけが先行しちゃうんです。そこで「言ってないよ」っていうのも大人げないし、みたいな。ママ友とかね。

林修:ママ友は難しそうですよねぇ。僕は永遠に入りたくないです(笑)骨董品を売りつけられて、あらぬ噂をたてられるっていう意味ではご自身に重なる部分がありそうですね。

林修「芋ばかりでるので卵を買う」

林修:芋ばっかり出てくるから、仕方なく卵を買ってきて補ったっていう、あそこ好きですね。

高嶋:ああー、そこで「清」のご飯が食べたくなるんですよね。

林修:でもそこじゃないんです。単に決められた食事じゃ足りなくて、自分で何かを足すってところが好きなんです。これはデブのせいだと思うんですけど、「デブはトッピングが好き」っていう普遍的法則があるんです。何か足したいんですよ。蕎麦屋とかに行っても、かき揚げ天蕎麦に、もう一個唐揚げが乗るんじゃないか、みたいな。可能な限りのトッピングを・・。

高嶋:何それー(笑)

怒ると言葉が出なくなるシーン

高嶋さんが選んだシーンをもう一つ。

おれの癖として、腹が立ったときに口をきくと、二言か三言で必ず行き塞(つま)ってしまう。狸でも赤シャツでも人物から云うと、おれよりも下等だが、弁舌は中々達者だから、まずい事を喋舌(しゃべ)って揚足を取られちゃ面白くない。

高嶋:うちの母もこういうタイプで、すごく腹がたつと意外と言葉が出てこなくなるんです。

林修:腹がたったら言葉が出てこなくなるんです。

高嶋:そういやこの前、始めて史上最大級の夫婦喧嘩をしたんですけど、確かに言葉が出てこなかったですね。

林修:変わりに何が出たんですか?

高嶋:家を出たんです。

スタジオ(笑)

林修:うまいなぁ(笑)まるで落語のようなオチがついちゃいましたね。お後がよろしいようで。

最後にひと言

高嶋ちさ子さん、「坊っちゃん」を表すひと言は?

『まっすぐな心』

林修:なるほど。まっすぐな心を持つ高嶋さんが、同じように真っ直ぐな心を持つ主人公を読み取って、この本を選んで下さいました。自分の姿を「赤シャツ」に重ねる僕は、こういった部分が欠けているような気がします。

▼番組で使用されたのは新潮文庫でした

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